なぜ、グローバル・ビジネスでリスクが発生するのか②
前回は、人は脳の中にあるRAS(網様体賦活系)の働きにより、相手が言っている内容を相手が伝えたい通りに聞くことができない。そのため、両者の間に理解のずれが発生するという話をしました。
今回と次回は、それに続き、英語と日本語の言語体系の違いによって引き起こされる認知不協和、コミュニケーション・ギャップについて解説していきたいと思います。
皆さんは、英語と日本語の言語体系の違いが、どれほど両者間のコミュニケーションに影響を及ぼしているかご存知ですか? そして、その言語体系で構築されたロジックでものを考えたときに、どんな認知不協和が発生しているか理解されていますか?
頭で理解している以上に無意識によって引き起こされるこれらの影響は大きいのです。
最近よく耳にするのが海外ビジネスにおいて「英語を話せる人を雇ったのに、どうもプロジェクトがうまく進まない」「こちらが思っていることが伝わっていないような気がする」「先方と険悪な感じになっている」という企業人の言葉です。
この原因の1つが、先に述べた言語体系の違いをベースにした「英語脳」と「日本語脳」を使い分けてコミュニケーションを取っているかどうかというところにあります。
英語脳というと、英単語と英文法が入っているだけの脳と思われる人が多いかと思いますが、英語脳とは英単語や英文法はもちろんのこと、英語特有の言語体系とそれら単語の背景にある文化や様々なシーンを踏まえての意味を包括した脳のことを指します。
つまり、英語を話しているとき、この英語脳が発火していないと、英語脳をベースにして生活している人たちにはこちらの真意は伝わりません。日本語脳で英語をパズルのように文法に従って並べてみてもうまく通じないのです。なぜならば、英語脳が発火している脳で英語を話している場合と日本語脳を発火させて使用する英語とは発している言葉にリンク付けられた意味的状況、内容が両者で異なるからです。(詳しくは「英語は逆から学べ!」をお読みください)
そのため、英語は話すけれど、日本語脳を使って英語を話している人を海外ビジネス担当者にしてしまったときに、多くの悲劇は起こるのです。(リスク診断士としては、「悲劇」ではなく「リスク」と言うべきですね)
よくある例として挙げられるのが、「understand」という言葉です。
日本語では「わかりました」と訳されます。
さて、米国本社から送り込まれた上司・A氏から話を受け「Do you understand?」と言われたとき、皆さんはどう答えられますか?
普通は「Yes, I understand.」と答えるでしょう。
さて、ここからが問題です。
何日経っても、A氏の元に話をした内容が上がってきません。
A氏はイライラし始めます。そして業を煮やし、担当者を呼びつけ、こう言います。
「この前、お前はYes, I understand.と言ったのに、なぜ、何も出てこないんだ?!」
担当者は驚きです。何かをやると約束した記憶がないからです。
ガンガンに叱られた後、担当者は渋々言われたことをやりますが、不満は募ります。
そして同様にA氏にも不満が募ります。日本人は言ったことをやらないと...
さて、この両者の間の何が問題だったのでしょう?
答えは「understand」に対する認識の違いです。
英語における「understand」は「理解しましたので、お聞きした内容を実行します」というニュアンスを含みます。そのため、「Yes, I understand.」と担当者が言った時に、A氏は担当者が言った内容を実行するという期待を持ちます。
ところが、当の担当者は日本語で言うところの「わかりました」の意味で使っています。
日本語の「わかりました」とは一体どういう意味でしょう?
お気づきの方はいらっしゃいますよね。
日本語でいう「わかりました」は「聞きました」ぐらいの意味でしかいないのです。
そのため、上記のようなズレが起きてしまったのです。
もしこの二人のうち、どちらかが海外経験が多く、この違いに気が付いていたら、上記の会話はこのようになっていたのではないでしょうか。
① 上司が経験豊富な場合
担当者が「Yes, I understand.」と言った後に、「では、何を理解したのか話もらえるかな?」と続けるでしょう。
② 担当者が経験豊富な場合
「お話はお伺いしましたが、それは実施したほうがいいのでしょうか、それとも現段階ではお聞きしておくだけでよろしいでしょうか?」と聞いていたでしょう。
面倒臭そうに思えますが、このステップがお互いのミス・コミュニケーションを防ぐための小さな心遣いなのです。
ただ、このようなことを理解していないとミス・コミュニケーションが起きます。この小さな蓄積がいつの間にか両者間における大きな不信感となるのです。
さらに、この小さなひずみに拍車をかけるように言語体系の違いによる認識誤差が加わります。
では、この言語体系の違いに関してお話したいと思いますが、文章が長くなりましたので、この件については次回に持ち越したいと思います。
英語は逆から学べ! 苫米地 英人著
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